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東京高等裁判所 昭和31年(う)1087号 判決

控訴人 被告人 渡部務

検察官 八木胖

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添附した被告人本人提出の控訴趣意書に記載したとおりである。

被告人の控訴趣意第一点について。

原審認定の新聞記事が、永山広の投書に対する回答の形式で記載せられていることは、所論のとおりであるが、本件記録に編綴せられている昭和三十年二月五日附の「新草加」には、右記事の附記として、一月三十一日の日附で、草加町、永山広名の投書がまいこみました。「うわさによれば内田町議は近日、住吉町内の一部を戸別訪問して町長氏をたのむと、廻つて歩いているそうです。これで公明選挙なのでしようかお尋ね致します。一町民より」と記載してあるところ、刑法第二百三十条第一項にいわゆる事実の摘示とは、行為者が自らある事実の存在を断定して表示する場合に限らず、右のようにある事実に関する風聞を記載した他人の投書を新聞に掲載する場合であつても、その記事が当該事実の存在を暗示するものである以上、これをも包含するものと解すべきである。而して右新聞記事中に内田町議とあるのは、原判決挙示の証拠にあらわれた諸般の事情から見て内田福一郎を指すことが明らかであり、且つ右記事は同人の名誉を毀損するものと認められるから、原審が被告人の所為を同人に対する名誉毀損と認定したのは相当であつて、何等の違法はなく、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

被告人渡部務の控訴趣意

第一点告訴人内田福一郎が告訴するに当つて提出した証拠品(昭和三十年二月五日付新草加)に掲載された「永山広さんにお答えします」という記事は内田福一郎が戸別訪問をした事になるという断定について不服です。

私の編輯兼発行になる昭和三十年二月五日付の新草加に掲載された「永山広さんにお答えします」は内田福一郎が戸別訪問をしたと記したものでなく、匿名ではあるが永山広なる一町民の投書に対する回答として掲載したものです。この記事にも明らかなように私は「おたずねの件にお答え致します、戸別訪問は選挙法違反になります、公明選挙かどうかは論外です、できればもつとくわしくお知らせ下さい、誰のところえ何時頃、どんなふうに、」と記したもの告訴の内田福一郎が戸別訪問をしたということを掲載しておりません。告訴人のいう永山広の投書の全文を附記として掲載したことが戸別訪問をしたということになるという点について私は次のように反論致します。附記された永山広の投書によれば「内田町議は近日、住吉町内の一部を戸別訪問して町長氏をたのむと、廻つて歩いているそうです」というところからも明らかなように、この投書は内田福一郎が戸別訪問をしていると断定していない。「している」と「しているそうです」とはその表現する意味は異つている。にもかかわらず一審判決は附記の永山広名の投書は内田福一郎が戸別訪問をしていると断定したものだとしているが、「している」と「しているそうです」の表現上のちがいを考えればこの投書は内田福一郎が戸別訪問をしたとは断定できないのではないでしようか。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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